膝の前側にあるお皿の骨のトラブル【分裂膝蓋骨】という症状で悩んでいるスポーツ選手の保存療法について当院の取り組みをご紹介します。
この記事を書いた人

長友 芳之(ナガトモ ヨシユキ)
柔道整復師・日本スポーツ協会認定アスレティックトレーナー
神奈川県横浜市鶴見区『ながとも接骨院』にて活動中。
この記事は科学的根拠を参考にしつつ、施術者としての経験に基づいた見解を含めて作成しています。
分裂膝蓋骨(ぶんれつしつがいこつ)とは

分裂膝蓋骨とは、膝蓋骨(膝のお皿の骨)が成長の過程でしっかりと一つの骨にならず、二つ以上の骨に分かれてしまっている状態です。
全人口の2%にみられる 『生まれつきの骨の特性・バリエーション』 で、ほとんどの方は痛みを感じる事はありません。そのため、痛みさえなければ特段気に掛ける必要はありません。
しかし、スポーツでの繰り返す負荷や、膝の打撲などをきっかけに痛みが発生することがあります。
とくにジュニアアスリートは、分裂している骨と骨の間の結合組織(軟骨)がまだ柔らかく不安定なため、大人のアスリートよりも痛みを発生する確率が高く、当院(または他の医療機関)でも、しばしばご相談を受ける機会もあります。
特にジャンプ動作やダッシュ、キック動作など、膝の伸展ストレスが繰り返される競技で症状が出やすいとされています。
保存療法と手術療法について現在の流れ
分裂膝蓋骨に関する報告を調べると、Kristen E. Hines らの報告では
315膝中 76%(239膝)は保存的治療後、平均1.9ヶ月で症状が完全に消失した。
残りの76膝(24.12%)は症状が持続し、手術的介入が必要となった。
と報告されています。
多くの場合、保存療法を行うことで症状が改善するが、一定数手術が必要になるケースもある、ということです。

当院は接骨院(ほねつぎ)ですので手術を行うことはできませんが、こうした最新のエビデンスをベースに、「どうすれば手術を回避し、保存的なアプローチで痛みをコントロールできるか」を日々追求しています。
ながとも接骨院での保存療法の例
当院では、単に安静を促すだけでなく、バイオメカニクス(身体の運動力学)に基づいた総合的なアプローチを行っています。
①痛みの状況に合わせた運動量の調整
強い炎症があって痛みが激しい時は、一時的にスポーツを休止した方がよいことがあります。
運動を継続しながらでも回復を見込める状態か、それとも一度運動を休止するべき状態なのか、は個々の選手の症状を確認してみないとわかりません。
どちらの方法を選択するにせよ、練習状況や目標などを考慮して、選手や親御さんと話し合って決める必要があると思います。
②外側広筋を中心とした大腿四頭筋のケア

分裂膝蓋骨の手術治療の研究では、多くの報告で
「膝蓋骨の外側上方へ持続的に加わる牽引力が疼痛に関わり、外側の筋や筋膜などの外科的な切開により痛みが顕著に緩和する」
ということが示されています。
そのため当院でも、
- 外側広筋
- 外側膝蓋支帯
- 腸脛靭帯
など、膝蓋骨を外上方へ引っ張る組織へのストレス軽減を重視しています。
実際に、イラストの外側広筋や腸脛靭帯、外側膝蓋支帯周辺の柔軟性を改善することで、即座に疼痛改善がみられる症例があることからも、保存療法において「外上方への牽引ストレスを減らす」という考え方は重要だと考えています。
具体的なストレッチ方法は以下の通りです。

上記で説明した外側広筋という筋肉をうまく伸ばすためには、上のイラストのように横向きになって伸ばすのが簡単です。
右足をストレッチしているのですが、反対側の足で右足を上から押さえこんでストレッチの力が逃げないように調整しています。

太ももの前側のストレッチで良く行われる上のイラストの形だと、肝心の外側の組織にストレッチがかかりません。
大腿四頭筋の伸ばし方には様々な物がありますが、外側の外側広筋をしっかり伸ばすためには股関節や膝のポジションが大切です。
他にも、大腿四頭筋の伸ばし方をご紹介したブログ・YOUTUBEもあります。ぜひご覧ください。
③膝だけではなく全体の姿勢も影響する
分裂膝蓋骨では、単純に「膝だけ」の問題ではないケースもあります。
実際に当院で対応したことのある方は、最初は「膝の痛み」ではなく「腰痛」を主訴として来院されました。
例として、学生スポーツ選手に多い、腰を反らすと痛いタイプの腰痛では、

- 痛み回避による後方重心
- 骨盤後傾
- 膝内部伸展モーメント増加 (※専門的にはこのように表現します)
が起こることがあります。
このような状態では、結果的に膝前面への負荷が増え、分裂膝蓋骨の疼痛につながる可能性があります。
そのため、腰や姿勢も含めた包括的な評価とケアが重要になります。
以前書いた、学生期の腰の痛みについての記事もあります
④膝だけに負荷がかかる動き方になっていないか
下肢には、『股関節』『膝関節』『足関節』 という3つの大きな関節があり、3つの関節でバランスよく動くことで衝撃を分散しています。

しかし、膝が痛い方の中には、「何をするにも膝ばかりを使う動き」になっているケースが少なくありません。
当院では、基礎的な動作の中で、お尻や股関節を主役として使う感覚を再学習させていきます。
例 階段動作

例えば階段を上る時、
体が後ろに残ったまま脚だけで上ろうとすると、膝前面への負担が強くなります(膝の内部伸展モーメントの増加といいます)。
一方で、少し重心を前へ移動させ、お尻の筋肉も使って上るようにすると、膝だけでなく下肢全体で負荷を分散しやすくなります。
このようにすると、膝の負担は相対的に減少します。
このように、「一部分だけで頑張る」のではなく、関節全体を協調して使うことが重要になります。
実際の球技などの動作の中で階段を昇ることはほとんどないですが、このようなカラダの運動イメージはとても大切です。
例 ランジ動作

球技などを行う方のトレーニングでよく行われる種目にランジがあります。
このランジも、行い方で膝へのストレスが変わります。
図の左側のように上半身が前側に突っ込んでいくと、膝の伸展モーメントが強くなり負担がかかります。
対して右側の図のように体重を下に落とすような形にすると、前後の下肢全体に負荷が分散して膝への負担は少なくなります。
こうしたトレーニングの中での「ちょっとした負荷の積み重ね」が、分裂膝蓋骨の痛みを呼び覚ます引き金(トリガー)になるため、徹底的にフォーム修正を行います。
まとめ
2026年現在、分裂膝蓋骨は「基本は保存療法でコントロールする方向で、症状が改善しない場合は手術を検討する」というのがスポーツ医学の流れです。
また、再発予防には、カラダの柔軟性の獲得や、使い方のエラーをなくしてゆくことが大切です。
当院では、
- 大腿四頭筋
- 外側膝蓋支帯
- 腸脛靭帯
などへのケアだけでなく、
- 姿勢
- 股関節の使い方
- 動作改善
も含めて総合的な取り組みを行っています。
病院などの医療機関とは違った視点でアプローチするようにしています。
膝の痛みでお悩みの場合、ぜひご相談ください!
参考文献
2024 Kristen E Hines et al. Systematic Review
2022 Tommy Pan et al. Symptomatic Bipartite Patella in Adults Treated With Open Excision: Outcomes and Management
2021 Jennifer Kallini et al. Retrospective Comparison With a Nonoperatively Treated Cohort
2021 Allison Loewen et al. Systematic Review
2015 George T Matic et al. Systematic Review



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